マンガ原作者のお仕事 第6回 津田彷徨と「高度に発達した医学は魔法と区別がつかない」
“マンガ原作者の仕事”にスポットを当てた本コラムは、なぜマンガ原作者という仕事を選んだのか、どんな理由でマンガの原作を手がけることになったのか、実際どのようにマンガ制作に関わっているのかといった疑問に、現在活躍中のマンガ原作者に答えてもらう企画。原作者として彼らが手がけたプロット・ネームと完成原稿を比較し、“マンガ原作者の仕事”の奥深さに迫る。
第6回には内科医として勤務する傍ら「やる気なし英雄譚」「ゴミ箱診療科のミステリー・カルテ」などの小説を手がけ、現在、モーニング・ツー(講談社)で作画担当の瀧下信英とともに「高度に発達した医学は魔法と区別がつかない」を連載中の津田彷徨が登場。医師にして、小説家になろうで活動する”なろう作家”である津田に、マンガ原作の醍醐味を語ってもらった。
構成 / 増田桃子
「高度に発達した医学は魔法と区別がつかない」第1話制作の裏話
完成原稿を目にして、特にこの異世界転移した直後の見開きページに感動しました。
やはり異世界における最初のシーンは、作品の世界観をひと目で伝える重要なシーンだと思います。
その重要な見開きシーンにおいて、私の脚本ではたった5行の記載だけのシンプルなものだったのですが、そこから瀧下先生が世界を完全に構築してくださいました。
結果、この見開きページの完成原稿を見た時、そこから異世界の香りを感じた気がして非常に感動したことを覚えています。
マンガ原作者として仕事を始めるに至った経緯
もともとは小説家になろう出身で、医療ミステリーや戦記ファンタジーなどの小説を書かせていただいておりましたが、講談社の編集さまより“異世界転生×医者”の企画に関するご提案をいただきました。
医師でもありなろう作家でもある自分にしかできないものを作れるのではと感じ、マンガ原作に携わらせていただくことになりました。
最もこだわっている作業
リアリティレベルの調整に一番力を入れています。
特に今作では現代医療のリアリティと、異世界のファンタジー部分が重なり合う作品ですので、そのリアリティレベルのブレは作品への没入感を下げるのではと考えています。
実際、医療シーンではまず監修を手伝っていただいている数名の医師と相談し、現代医療ならばこの場面でどうするか症例検討を行い、その後にファンタジー世界にリアリティをブレさせずどうやって落とし込みむかを考えながら進めています。
マンガ原作者という仕事の魅力
マンガ家さんにお渡しした原稿が、マンガとなって自分の想像していた作品世界を遥かに超えたものとなる瞬間ですね。
その意味においては、私は私の原稿以上のものを常に描き上げてくださる瀧下先生の一番のファンだと自負しております。
マンガ原作者を目指す人へ
ネーム原作ではなく脚本形式で原作を書かせていただいていますが、どうしても文字だけで伝わりにくいものは存在します。
今作の医療シーンに関しては、外科の練習キットなどを用いて写真や動画でマンガ家さんにその伝えづらい部分の手技などを伝えております。ですので、現代においてはスマートフォンなどを有効に用いて、さまざまな媒体で作画の方に自らの意図を伝える手法が考えられるかと思いますので、医療に限らずそういうものを適時活用するのも一手かもしれません。
ただもちろんこれは私が脚本形式を取っていることが理由の部分もありますので、やはりネーム原作であれば、より作画の方により自らの伝えたい演出や思いを齟齬なく伝えることができるかと思います。
いずれの手法においても、最も大事なことはやはり作画の方により伝わるように原作を提供することですので、それぞれの手法に適した方法を考えていくことが大事なのかなと考えております。
津田彷徨(ツダホウコウ)
1983年生まれ、兵庫県出身。医師、作家。内科医として勤務する傍ら、執筆活動を開始。小説家になろうにて発表した「クラリス戦記」は、改題・改稿を経て「やる気なし英雄譚」として2014年に商業デビュー。主な著作に「やる気なし英雄譚」「ゴミ箱診療科のミステリー・カルテ」「ネット小説家になろうクロニクル」、「ロンドン黒死病事件」(「FGOミステリー小説アンソロジー カルデアの事件簿 file.02」収録)などがある。